「だって。俺は、本当に嬉しかったから」
まさか、水野さんから言ってもらえるとは、思っていなかった。
こんなに直ぐに好きになってしまうのは、単純で馬鹿な俺だけだと思っていたから。
しかし、その後の水野さんの「ごめんなさい」の意味は、どういうことだったのか。
あれは、やっぱり俺が高速で、自動的に(?)フラれたということになるのだろうか。
中谷さんが目の前に居るにも関わらず、またモヤモヤと考えてしまう。
考え込む俺の顔を、中谷さんは覗き込んできた。
「……辻さん。水野さんのこととなると、びっくりするくらい柔らかく笑うんですね………………いつものうるさい顔からは、想像できない。不本意ですけど、ドキッとしちゃったじゃないですかー」
照れ臭いが「当たり前じゃないすか」と小さく呟くと、何故かしら中谷さんが少し赤くなり、俺の二の腕あたりを思い切り振りかぶって、叩く。
とても痛い。
これ脱いだら、綺麗な真っ赤な紅葉が、くっきり出来ているやつだ。
かなりヒリヒリしている。
自身の腕をさすっていると、中谷さんが腕を組んで何やら考え出した。
「ということは、水野さんが嘘を吐いているんですか?」
「水野さんと中谷さんが話しているところに、俺は居なかったので、水野さんがどういう言い方をしたかは知りませんよ」
「いや、だって、水野さんはあのとき──
中谷さんは、そのときの状況を知らない俺に、説明を始めてくれた。



