しかし、そんなこと、中谷さんに俺からは言えない。
水野さんだって、勝手にそんなことを言い広められたら、嫌に決まっているのだから。
第一、俺が自惚れていると思われて、恥ずかしい。
「辻さんとの話が終わって戻って来た水野さんったら、涙目になっていたんですからね」
「え……そんな、だって、今日は普通に……」
いや、そんなことはなかったな。
いつもとは違い、寂しそうに微笑んでいたように見えた。
それのことだろうか。
「今朝は、今朝です!まだ白を切るつもりなんですね」
「いや、だから、本当に俺は……」
「もう私から言っちゃいますけど、水野さんのこと、フッたらしいじゃないですか」
俺の思考は一度停止して、ようやく出たのは「は?」という一音だった。
しかし、中谷さんは変わらず、グッと睨みつけてくる。
そんな顔されても、俺は訳が分からないままだから、何とも答えようがない。
「フッた……?俺が…………?いやいやいやいや、それは真実とは程遠いですよ」
「辻さん、いい加減、往生際が悪いです。水野さんを泣かせた罪で罰します!」
「罰するって、どんな罰なんすか……というか、ちゃんとこっちの話も聞いてください」
「何ですか?言い訳でもするんですか」
「違いますって……」
いい加減に疲れてきた。
分かってもらえないって、やっぱり辛い。



