「いや、経験も浅いし、頼りなく思われるのは、当たり前だとは思います」
「そんなこと、ありませんよ」
「気ぃ遣ってもらわなくても、大丈夫ですよ。ただ純粋に、水野さんにとって精神面での負担がかかると思うと、心配なだけです」
「辻さん、大袈裟ですよ……」
「俺は、大切なことだと思います。あ、ちなみに心配するっていうのは、俺だけじゃなくて!部長も、山本くんも、中谷さん、みんながですよ」
これが俺にとって、水野さんを守るために出来る、第一歩だ。
真剣な思いで、水野さんを見つめる。
すると、水野さんは根負けしてくれた様で、半分呆れたように笑った。
そして、俺の方に体を向けると、小さくお辞儀をする。
戸惑う俺と、顔をゆっくりと上げた水野さんの目が合った。
「ありがとうございます」
「い、いえ!とんでもないです!」
「何で辻さんは……」
「え?俺が、何ですか?」
俺が何度聞き返しても、頬を赤く染めて、教えてくれようとしない。
水野さんが何を言おうとしたのか、気になって仕様が無い。
それでも、教えてはくれなかった。
会話の終わりを見計らったかの様に、やって来た電車に乗り込む。
車内では、お互い終始無言だった。
しかし、少し話すことができただけでも、こんなに幸せだ。
なんて、甘いこと。