『辻さぁん…………おーい……辻さぁん……つじ──』



俺はまさに今、ある動物たちにもの凄い速さで、追い掛けられていた。

必死で逃げながら、後ろの様子を伺ってみれば、大群のカピバラ。

意味が分からない。

そのカピバラ達は俺を追い掛けながらも、名前を呼んでくる。

まるで、トンネルの中に響いている様な音で。

ますます意味が分からない。

男性寄りの声だ。

どこかで聞いたことのある声に、エフェクトがかかっている。

かなり気色悪くて、ゾワゾワする。

そして、だんだんと近寄ってくる声。

──駄目だ! 追い付かれる!

目を瞑った途端、俺を呼ぶ響く声が鮮明に、はっきりと聞こえてきた。



「──辻さん! 起きてくださいよ!」



目の前に現れたのは、カピバラ……ではなく、山本くんだった。

寝惚け眼で辺りを見渡す。

そうだ、ここは営業車の中だった。

遠方の取引先を目指しているため、コンビニの駐車場にて少し早めの昼休憩を取っていた。

弁当を食べた後、いつの間にか眠りに落ちていたようだ。

そして何故だか心持ち、頭が痛い。



「はぁぁ……カピバラ、怖ぇぇ……」

「何、言ってんすか。意味不明な発言をする辻さんのが、俺は怖いですよ」



そうだった。

ドン引きする山本くんと今日は同行していたのだ。



「さて、さっさと出ますよ。取引先との商談に遅れたら、ヤバいんで。運転席で爆睡されると、出発も出来ないですし」

「すみませんでした。行きましょう」



体調に違和感をおぼえつつ、車を発進させた。