「いえ。お疲れ様です。担当の方、大丈夫でしたか」
「はい。辻さんのお陰です。堤さんに会ってくださってたんですね。本当にありがとうございました」
「あ、堤さん、水野さんに言っちゃったんですね。言わないで、って言ったのに」
辻さんは勝手が悪いと、苦笑いを浮かべる。
そして「帰りましょうか」と言いながら、スマートに手を差し出してくる。
「お客さんの会社の前ですから……」
本当は握ってしまいたい、その手から目を逸らした。
仕事優先になってしまう私に、呆れられてしまうかも、なんて後悔が湧いてくる。
しかし、辻さんは小さく吹き出す。
「言われると思いました」
そして、私が隣に来るのを待ってくれる。
2人歩き始めて、花川産業さんをほんの少し離れた辺りで、辻さんの横顔を改めて見上げる。
隣に居てくれてるはずなのに、何だかもどかしい。
むずむずする。
私、変態になっちゃったのかな。
せっかく差し出してくれた手を断ってしまい、思いっきり後悔している。
純粋に触れたい。
「あの……」
「ん?」



