【水野さん視点】



「大変申し訳ございません!」



21時前の花川産業さんは、既に営業時間を終えている。

それにも関わらず、担当者である堤さんは残ってくださっていた。

ずっと、私が来るまで待っていてもらったのだと思うと、申し訳ない。

入口のカウンター前で、とにかく頭を下げ続ける。

こんな失態は、生まれて初めてだ。

信頼が薄れてしまったかもしれない。

頭を下げて、謝罪を続ける私に堤さんは、意外にも柔らかく微笑んでくれた。



「そんなことよりも、水野さんに大事がなくて良かったです」

「そ……そんな」

「真面目できっちりしてくれるので、何事かと心配でソワソワしましたよ」

「本当に申し訳ございませんでした……こんな時間まで、お待たせしてしまい……」

「問題ありませんよ。僕も残業してでも、終わらせないといけない仕事が丁度あったので。それに、約束してもらった時間には、間に合ってますし」

「……え?でも、もう21時……」



カウンターの上にある電波時計と、堤さんの顔を何度も交互に見る。



「水野さんの部下だって言う方が来られて、事情を説明してくれたんですよ」



そう言って、堤さんが1枚の名刺を差し出す。

そこには確かに『エースワン株式会社 営業部 辻 泰孝』と書かれていた。