いつも要領よく動く水野さんに珍しく、次の行動に移せないでいる。



「水野さん。とりあえず、サンプルを堤さんのところへお届けに行きましょうか」



そう伝えた瞬間、水野さんは大袈裟に慌てる。

忘れてしまうくらい、実はかなり動揺していたのだろう。

社用携帯で時間を確認すると、猶予をもらった時間が迫っていた。

時刻は、20時40分。

さすがに、これはまずいと2人、駆け足で向かった。

2人の足音が、夜の街に鳴り響く。

何かの逃走劇の様だと思えて、水野さんと居ると、いつも退屈しないな、なんて呑気に考えていた。

そうして、今度こそ2人で花川産業の前までやって来ると、一緒に中まで行こうとした俺を、水野さんが止める。



「ここからは、1人で行ってきます」

「そうですか。じゃあ、俺はここで待ってます」

「すみません」

「いえ。いってらっしゃい」



水野さんは顔を赤くして、中へと入って行った。

ようやく、いつもの水野さんだ。

心底、安堵した。