「どうして、こんなに、私に構うん、ですか……」



嫌だ、声が震えている。

すると、田中さんは首を軽く傾ける。



「キミの為さ」

「え……?」

「まりが幸せになりたがっているから」

「それ、本気で言っているんですか……」

「もちろん」



何を言っているのか、よく分からない。

恐怖さえ感じる。

震えが止まらない。



「……ごめんなさい。聞いた私が、馬鹿でした」



絶対、本心じゃない。

同じ職場のとき、いつも田中さんが何を考えているのか分からなかった。

私に物理的に迫るときも、帰社後、私よりも先回りして、私の自宅前で待ち伏せていたときも、いつでも得体の知れない何かだとしか思えなかった。

この人が人だなんて、思えなかった。

今も恐ろしくて、逃げ出したくて、相変わらず私の手に絡まる、この人の手を外そうと必死になった。

逃げ出したい。

怖い。

そんな私の力なんて、屁でもない田中さんは、むしろ嬉しそうに笑みを浮かべ出す。

それに、ゾッとして、一瞬動きを止めてしまう。

そこに、田中さんは私の手を両手で包み込むように触れた。



「どうしてさ。今だって、そんなに――」



田中さんが何を言いかけたが、途中から聞こえなくなった。

私の耳がそんな人の声なんかよりも、もっと大切な人の声を手繰り寄せようとしたから。



「水野さんっ……!」

「……っ! 辻さ……」



嘘、本当に来てくれた。

胸がいっぱいになり、今までの嫌悪による緊張が一気に解けて、息が楽になる。

ーー本当に辻さんは、申し訳ないくらいに私のヒーローだ。