中谷さんは自分の社用携帯を耳にあてていたが、しばらくすると耳から離す。



「本当だ。出ませんね」



中谷さんは眉間に皺を寄せ、携帯画面を見つめていた。

俺からも駄目元で、もう一度かけてみる。

もし何も無ければ、しつこいと思われているところだろうが、今はまるでそんな気がしない。

俺自身、不安でならない。

この短時間で、聞き慣れた呼び出し音が再び続く。

もちろん、出ない。

諦めて切ろうとした、そのとき。

プツッと突然に、音が途切れた。

これは。

これは、向こうに意図的に切られたということだ。

お客さんをほったらかしにしておいて、電話にも出ないなんて、絶対に水野さんらしくない。

考えられない。

出られないなら出られないで、いつもならショートメールを送ってくれるはずだ。

きっと、何かに巻き込まれているとしか、思えなくなる。



「俺、ちょっと探してきます」

「え、でも、探すって言ったって、どうやって」

「とにかく探してきます! 見つかったら、連絡しますから」



そう言ったら、もう走り出していた。

遠くの方から、中谷さんが叫んでいるのが聞こえる。

それでも、気にせず走った。

今は水野さんのことが心配で、他のことが頭に入ってこない。

何かが、あったのではないか。

事件? 体調を崩した? どちらにせよ、心配で気が気ではない。

会社の外に出ると、とりあえず最寄り駅へ向かった。

周りを見渡してみても、彼女らしき人物は見当たらない。

どこへ行ってしまったのだろう。

仕事終わりで帰路につく人々の中で、ただ1人辺りをキョロキョロと見回す。

すると、偶然、俺の目前を白い紙袋を持つポニーテールの女性が横切った。

迷わず、声を掛ける。



「水野さん!」



その場で振り返った女性は、まさかの水野さんとは別人だった。

振り返った女性は、呼び止められてと言うよりは、俺の大きな声に驚いて振り返ったという風だ。

俺は一言謝罪をして、また探し回った。