日曜日の午前11時。

駅前の時計塔にて、私服に身を包んだ彼女を見つける。



「水野さん!」



俺が呼び掛けると、スマホに落としていた視線を上げ、こちらに気付く。

そして、微笑んでくれる。

その頬が赤らんでいた。



「すみません! お待たせしました」

「い、いえ」



水野さんは短く返事をすると、特に何を言うでもなく、俺をじっと見ている。



「ん? 何か変ですか?」



生憎、センスなど、あまりよく分からない。

ただ家にある服のうちでも、一張羅の部類となる物を引き摺り出してきた。

黒のVネックTシャツにグレーのジャケット、そしてジーンズ。

え、コレ、実際どうなの? 地味? ラフ過ぎた?

そうならないために、ジャケットを羽織ってみたんですけど。

悩んでいると、水野さんはゆるりと首を横に振った。



「変じゃないですよ。辻さんの私服が新鮮で、見惚れちゃいました」



あー、良かった!

外してなかった!

やりました、俺。

水野さんに見惚れられちゃいました。

あまりに照れ臭くて、顔を手で覆う。

いや、そもそも。それよりも。俺なんかよりも。

己の顔を覆った指と指の間から、彼女を覗く。