「無理ですよ!俺に営業マンなんて!」



狭い社内の一室に、俺の叫びが谺する。

必死に否定を繰り返す俺に、部長は苦笑いを浮かべていた。



「いや、しかしな…辻には、営業部が向いていると思うんだ。お前は、その…あれだ、人懐っこいところがあるし、お客様にもすぐに気に入られて、ここよりも合うんじゃないかと思ってな……
お前はもっと、自分の才能を発揮できる場所を見つけるべきだ」

「……つまり、遠回しに『俺は総務部では足を引っ張っている』そういうことですね、部長」

「辻、その解釈は違うぞ」



自分自身でも、薄々は感じていた。

張り切りすぎて空回り、調子が良ければ声はでかくなるし。

確かに、空気を読めないことが多々あった。

この知的な雰囲気の総務部のオフィスで、俺は一人浮いていた。

落ち込む俺に部長は少し慌てた様子で、額の汗をハンカチーフで拭いている。



「俺は、お前が好きだ…!」

「え。部長、急に何ですか…気持ち悪っ」

「馬鹿野郎!変な意味じゃない。俺はお前の元気で活きの良いところには、一目置いているんだぞ」

「あ、ありがとうございます…!」



調子よく、大きな声を出しながら、勢いよくお辞儀をすると、部長もうんうん、と頷く。

部長の反応に対して、俺は単純に喜び、満面の笑みを浮かべる。



「じゃあ、営業部への異動のお話は、ただのドッキリということで──

「どうして、そうなる。その元気のよさを活かした、更なる活躍を期待しているからな」

「部長ぉ……」



その場で項垂れる俺の肩に、部長は手を置き俺を宥める。

そうして、俺は総務を「追い出された」のだった。