「早瀬万里香さん?」

「そうですが」

コーヒーを片手に返答する。

どうやら私が目当てのようで、声をかけた人物を観察する、
記憶違いではなければ、常務のはず。

「僕は藤沢直哉、僕と付き合ってもらえませんか?」

「はい、わかりました」

そう答えると、極上の笑顔で返される、
笑顔が上品な人って得ねと、心の中で思う。

「これ、僕の連絡先、土曜会える?」

「はい、大丈夫です」

業務のやり取りのような会話の後、連絡先を書いた名刺を渡され、
コーヒーを持ってない手で受け取る。

「後でメールして」

それだけ告げて、職場の皆に礼をして去って行く。

ふと、職場を見ると、視線が集中している。

「おめでとう」

2年先輩がにやにやして声を掛けてくる。

「そうだな~、とりあえす1か月でマクド、2か月でレストラン、
3か月でステーキおごってやるよ」

課長も面白そうに、声を掛ける。

「ありがとうございます」

と笑顔で返しながら、席に着く。

サンドイッチを取り出しながら、名刺を見る。

肩書は自分の記憶通り、常務となっている。

藤沢商社の社長の息子で、御曹司、
大学生の時から仕事に携わり、今ではその能力を誰もが認めている。

加えてイケメンで優しく女性の扱いが上手い。

そうなると、もてて当然で、女性の噂も絶えない。

そう。

とりあえず女性関係が派手で、私の知る限りで彼女は14人目、
付き合って最長が3か月11日と、噂されている。

私があっさりOKしたのも、そうゆう理由。

得に好きでも憧れていた訳でもないが、
イケメンで高スペックな男子に声かけられたら、
一度ぐらい付き合ってみてもいいかなという、軽い気持ち。

当然、結婚、玉の輿など、まったく想像もしていない。

周りも、またかといった感じで、騒ぐでもなく、ひやかし程度。

サンドイッチの最後の欠片をコーヒーで流し込み、
名刺の後ろに書かれたアドレスをスマホに登録する。

土曜日は何も予定が入ってないので、いつでもいいと内容を入れ、
意識を仕事に切り替えた。