海外出張の間、仕事以外の時に頭に浮かぶのは、こけしちゃんの姿だった。

常務に秘書課や受付の誰それはどうかと薦められても、全て断った。
俺は昔から真面目で優等生がタイプだ。
派手で着飾った人は苦手で、ましてや結婚相手となれば尚更だ。

こけしちゃんに初めて会った時から、俺の心は決まっていたのかもしれない。

何でも真面目に真剣に取り組むこけしちゃん。
自分よりも人のことを思いやる優しい心。
時折見せる可愛い笑顔。
透き通るような綺麗な肌。
力強そうに見えて実は華奢な身体。

ようやく明日会える。
明日はきちんと話そう。

そう覚悟を決めて、次の日を迎えたが、なかなか予定通りに事は運ばない。

部長には午後から出社でいいと言われたが、いつも通り朝から出社するつもりでいた。
だが、長時間フライトに加えて日頃の疲れが出たのか、珍しく寝過ごした。

結局昼前に出社したが、肝心のこけしちゃんは朝から謝恩会の準備で会場のホテルに行っていて、会社で会えそうもない。

昼に抜け出してホテルに行こうと考えていたら、部長からランチミーティングに出席するように言われ、今日一日会社に缶詰め状態になることが確定だ。

こんなことになるなら、プライベートな連絡先くらい聞いておけばよかった。
つい会社でいつでも会えると油断していた。

仕事では決してこんなことにはならない俺なのに、こけしちゃんのことになると、思うように事が運ばない。
なんとももどかしい気持ちになる。

運の悪い事に、今日は金曜日だ。
週末を挟んで、来週はいよいよ謝恩会の準備でとても話せる時間は取れそうにない。

謝恩会が終わったら話そう。

そう覚悟を決めて、仕事に取りかかった。


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