大通りを歩きながら高畑さんに連絡をして、別の場所で待ち合わせた。

歩幅はゆっくりなのに、息が苦しい。

成瀬課長の表情が頭から離れない。

上司が部下を心配する言葉の数々がリプレイされる。

わかってる。
頭では十分わかってる。
けれど、私の心はギュッと鷲掴みされたまま、諦めることも忘れることも出来ないのだ。

流れそうになる涙をギュッと我慢して、待ち合わせ場所へと急いで歩いた。



会社から大通りを歩いて数分のところで、私は拾ってもらった。
後部座席に乗り込むと、車はレコーディングスタジオへと走り出した。

私はいつも通り、濃い色のサングラスをかけて、つば広の帽子を被った。

ふと、運転中の西田さんの険しい表情が視界に入った。

「西田さん、どうかしました?」

「…つけられてる」

西田さんの低い声が車内に響いた。
高畑さんはサイドミラーやバックミラーで相手を探っている。
ここは西田さんのプロの運転技術の本領発揮といったところで、車はスムーズに周りの車をかわしていき、つけてきていた車を撒いたらしい。

誰かにつけられてるなんて、背筋が凍るような話だし、物騒極まりない。

ここ最近こんなことが続いていて、体力的にも精神的にもいっぱいいっぱいな状態。

これがひとりだったら、私は堪えられなかったはず。

でも、私には高畑さん、西田さん、事務所の社長、助けてくれる人たちがいる。

大丈夫。
ひとりじゃない。

震える手から徐々に力が抜けていく。