今夜もレコーディング。

私の歌声が誰かに届いているのかと思うと、幸せな気持ちになる。
一方的な私の勝手な思いとわかっていても、聞いてくれてる人がいる、それはとても嬉しい。

女の子は恋をすると、毎日が輝いて見える。
昨日までなんでもなかったことが、キラキラと、そして時には切なく感じる。

好きな人に自分を見つけてもらいたい。
守りたいし、守ってもらいたい。
ギュッとしたいし、ギュッとされたい。
愛したいし、愛されたい。

好きな人にはどうか幸せでいてほしいと願う。

もし想いが通じたら、それは奇跡か、運命か。


私は自分の恋と重ねて、恋の歌を歌う。

成瀬課長にはどうか幸せでいてほしい。

その願いを込めて、私は歌う。


定時を過ぎて、急いで1階に降りる。
正面玄関を出たところに、黒のワンボックスカーが停まっているのが視界に入る。
足早に向かっていると、私の名前を呼ぶ声に振り返った。

「こけしちゃん、お疲れ様。今帰り?」

成瀬課長が少しずつ近づいてくる。

「お疲れ様です。課長、出張じゃなかったんですか?」

確か、予定表には『出張』と書かれていた。
日帰りの出張だったのだろうか。