「わあー!スゴイスゴイ!!」


「こら!しょうこ!危ないよ!」


キャンプ場で走り回る少女と、彼女を追いかける少年の姿を、周りにいる親達は微笑ましく眺めている。



「ほら!捕まえた!」


「もー!隆にぃ(りゅうにぃ)あしはやすぎ!てかげんしてよ!」



兄に捕まえられた少女は、頬を膨らませて抗議する。



「良いわね、しょうこちゃんは元気で。
見ていて明るい気持ちになれるわ。」



黒い長髪を緩く1つに結んだ女性が、そんな二人を見て複雑な面持ちで呟く。



「健太くんも、手術をしたらきっとしょうこみたいに走り回れるようになるよ。もう、すぐにあっちこっちに行っちゃって、友美(ともみ)さんが大変なくらい!」



友美と呼ばれる女性を明るく励ますのは、笑顔が印象的なしょうこ達3兄妹の母親、奈央。

友美の次男、健太は、心臓病で手術を必要としている。




「ごめんね、そんなつもりじゃなかったの。
子供達が大きくなるのって、あっという間ね。
隆介(りゅうすけ)君も、うちの優太も、この前までランドセルを背負っていると思ったら、もう中学校の制服を着ているんだもの。耕介くんはもう五年生で、しょうこちゃんと健太ですら、もう小学生よ。」




友美は、暗くなってしまった空気を払うようにして、努めて明るく言った。




「そうだよね。
ほんと、ありがと。友美さんが誘ってくれなかったら、キャンプなんてこれなかった。うちの旦那、アウトドアはからっきしダメだから。」




そう言いながら奈央は、向こうで友美の夫の春樹(はるき)の指導のもと、あたふたと昼食のタメの火起こしに挑戦している自分の夫、純平を情けないとでもいうように一瞥した。




「ううん。お礼を言いたいのは、うちの方。
優太も、子供一人じゃつまらないから。
隆介君たちが一緒に来てくれたおかげで、あんなに楽しそう。
どうしたっていつもは健太に構ってばかりになっちゃうから、たまには優太も遊びに連れていってあげたかったの。」





「友美、そろそろご飯の準備ができたから、子供達を呼んで来てくれ。
うちの店から材料を持ってきた、とっておきのもんじゃとお好み焼きだ!」



春樹に言われ、母二人は子供達の元へと行った。



「みんなー!ご飯だよー!」



お腹が空いていたのか、すぐに駆け寄ってくる。



「今日のご飯、なに?!」



しょうこがキラキラとした眼で訊ねる。



「どうせ、もんじゃかお好み焼きでしょ?」



「お!せいかーい!優太くん、勘が鋭いね!」



「ここまで来たっていうのに、もんじゃとお好み焼きかよ。」



「ここまで来たからこそだよ!この自然の中で、うちの店のもんじゃとお好み焼きを食べたら、もうほっぺた落ちちゃうぞ!
ほら、お前も手伝え!」




不満そうな顔で春樹に引っ張られていく優太に、皆が笑みをこぼす。











「ご飯食べたら、なにする?」




お好み焼きを頬張りながら、耕介がみんなに訊ねる。




「しょうこ、お花とりたい!けんちゃんに持ってってあげるの!」




「ありがとね、しょうこちゃん。でも、お花はいま摘んだら帰るまでに枯れちゃうから、後でにしようか。
そうだ、おばちゃんみんなが遊ぶかな?って思って水鉄砲持ってきたんだった。
ご飯食べたら、川に水遊びに行ったら?」




水鉄砲と聞き、耕介としょうこのテンションは一気に跳ね上がった。




「子供だけで危なくないか?」



「隆介君と優太はもう中学生。大丈夫だろ。
みんな、行っていいのは浅いところだけ、もし雨が降ってきたり雷がなったりしたら、すぐに川から離れるんだぞ。あと、もし何かあったらすぐに知らせにくること。おじさんとの、お約束!」




「うん!いってきます!」




「いってらっしゃい」




初めは心配していた純平も、春樹の言葉によって安心したようで、快く子供達を送り出した。