「どうしたんですか」




まさか、作りすぎちゃったんで料理のおすそ分けに?


ドラマでも見かけないベタな訪問理由に、まさかそんなわけないと自分でツッコむ。


手ぶらで突っ立つ彼女を見て、そんな心配もなさそうであることに少しだけほっとした。でもじゃあなんで、全く心当たりがないよ。




「……あの、お話があって」


「はい」


「……レオ、……のことで」


「……レオ? さん、……て?」




レオ、……ああ、この人の男。隣人のヒモのほうか。急に言われてもわかんなかった。


夜中聞く、狂ったようにこの人の呼ぶ「レオ」と、今聞いた弱々しいその響きがなかなか一致しなかった。


あの人のことで話? あたし何かしたっけか。ていうか今朝挨拶を交わしたのがファーストコンタクトだったと思うのだけど。




「……私の、その、……彼氏。です」


「あ、はい。あの、いつも出入りしてる方ですよね。うちのアパートの壁、薄いですから。時々声も聞こえてます」


「すっ、すみません、あの、ご迷惑を、」


「あ、いえいえ、こちらこそすみません! そんな嫌な意味で言ったんじゃないんですけど……」




自分でも予想外に嫌味な言い方になってしまったので、そわそわして目をあちらこちらへ泳がせる秋元さんに慌てて首を振った。