隣人はヒモである【完】




彼女は一人じゃとても生きていけない可哀そうな女なのだ。


そしてこの人は、そんな彼女を見捨てられない優しいばかだ。


毎晩聞こえる女の喘ぎ声は、彼女がわざと、必要以上に声を張り上げているに違いない。あたしに聞かせ、けん制するためだ。この男は自分のものだと。


不自由だと思う。


芙美の言っていたイタリアンレストラン、ホームページを見せてもらった。1年前まで在籍していたという本場イタリア帰りの天才シェフの写真が載っていた。


今よりずっと清潔感があり、芙美はイケメンでしょう、一目見たかったのに残念だとがっかりしていたが、あたしはその人がだれか分かった。


目の前のこの男じゃないか。だって目が同じだ。


写真の中のあの人はとても希望に満ちていたのに、人は1年でこんなにも変われるものかと驚かされる。


でもあたしには分かる。


この人が料理人を辞めたのは、彼女のせいじゃない。彼自身の意思で、彼女を言い訳に、体よく自分に言い訳をして辞めたのだ。


この人は空っぽだ。だってあたしと似ている。


だけどそんな自分にいつだって焦っている。


このままでいいわけないって思ってるくせに。


昨日、レオさんにつけられた首元のあざ、彼は確かに最初あたしを殺そうとしたに違いなかった。


でなければこんなにひどい跡がつくわけがない。