「……何してるんですか、平日の朝っぱらから」

「……今何時?」

「12時過ぎだけど」

「頭いてえ……」

「相当飲んだんですね、」



良い御身分ですね、という言葉は繋げずに胸の中だけで消化した。



「あなた、うちとあの人の家、間違えたんじゃない」

「……みたいだな。……あー」

「え?」

「いや」



一瞬、この人の視線があたしの首元に向いた気がして半ば無意識に首に触れた。


ふと、玄関に置いていた姿見の中に自分が映り、首元にうっすらと紫色のあざが出来ていたことに気付いてぎょっとした。


えっ、いつの間に? さっきの? 最初、レオさんに首を絞められかけた時?


喉を絞められたのはあの一瞬だけだったし、これ程の跡がついているとは思わなかった。


ちょっと大げさなくらいに痛々しい。


レオさんは自分がやったことにどうやら勘付いているらしかったが、悪びれる様子も謝罪する気配もなく、無視を決め込むつもりらしい。


どこまでもくずだなと思う。


そしてそんな扱いを受けてなお、取沙汰しない自分にも問題があるような気がしたが、あたしも、そんなあたしを無視することにした。



「……悪いね、邪魔して。帰るから」

「あ、」



レオさんはちっとも悪いとは思っていなさそうだし、帰ると言って立ち上がったもののふらりとバランスを崩して尻もちをついた。



「……今出ていってもいいけど、あなた、カギ持ってないと思う」



ふと思い出して告げれば、レオさんはズボンのポケットを叩くようにして、んんと呻いた。


別に引き留めるつもりで言ったわけではないけど、結果としてレオさんは立ち上がることを諦めた。