隣人はヒモである【完】



「別に、そんなことはないけど……」

「いーのいーの、でももし付き合ったら教えてよね」

「ていうかどこで見てたの?」

「ああ、駅。知ってる? あそこの駅の近く、雑誌に載ったイタリアンレストランがあって、友達とそこに」

「へえ、美味しかった?」

「んー、いや、なんかシェフが変わったとかで、美味しかったんだけどね、よくわかんなかったかな」



話をそらすことに成功した結果、芙美のイタリアンレストランへの不満話が始まった。

なんでも、本場イタリアで修業を積んだ若き天才シェフが在籍していたとかなんとかで有名になったらしいけど、いつの間にかシェフは辞めていてとかなんとかこんとか。

あまり興味はないけど、あの駅の近く、そんな有名店があったとは知らなかった。

まああたしにとっては、るいくんと待ち合わせる以外の目的で降りることもなかったし当然といえば当然か。

そもそもそんなに駅で待ち合わせることもなかったし、昨日見られてしまったのは偶然の不幸だ。

しばらくるいくんとは会わないか、徹底的にるいくんの家でだけ会った方がいいのかもしれないな。