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その後、あたしとお隣さんの関係が劇的に変化したとか、悪化したとか、そんなことは一切なかった。
あの一夜が夢だったのかと思うほど、何も変わらない。
あたしは大学に通い、友達と話したり、るいくんと遊んだりして毎日を過ごしたし、隣人は隣人でそれまでとなんら変わらず宜しくやっているぽい。
ただ、毎晩毎晩聞こえる致している男女の声が耳に入る度、わざとあたしに聞かせていると言ったあの男の話を思い出してなんとも言えない気持ちになった。
そして、もう一度あの人と話ができないかと考えている自分がいることを、認めざるを得ない程あたしは隣人を強く意識している。
「あのさあ」
「え?」
「穂波、私に隠してることあるでしょう」
芙美の声にどきっとして、スマホ画面からそろりと顔を上げた。
友人の表情は、予想に反して好意的でかつ、好奇心を抑えきれないものであったので、少し安堵する。
「えー、どれのことだろう―」
「ちょっとー、そんなにたくさんあるわけ?」
隠し事なんて、大小の差はあれど誰しもが抱えているものだと前々から思っていたので、我ながら自然な風に返すことができた。
芙美も呆れたと言わんばかりに眉を顰めたけれど、そこにあたしを侮蔑するような感じはなかったので、平静を装いつつ何を責められるのかと心当たりを探った。
なんだろう。あの隣人とのことだろうか? 家に泊めたことを言っているのかな。でもどこでそんなの気付く?
あれ以来芙美に隣人の話は露ほども漏らしていない。

