「じゃ、行くわ」
そのあと、きっかりしっかり食器の洗い物までやってくれたレオさんは、あたしの心配をよそに、あっさりと腰を上げた。
あ、そう。なんだ、普通に出てくのか、なんやかんや言い訳をされて今日も泊まって行くのかと思ってたから、ちょっと拍子抜け。
時刻は15時に迫っていて、妥当といえば妥当な、夕方が近付くお別れの時間。妥当ってなんだろ。
「……どうするの? 今日」
「パチンコ」
「ぎゃっ、くず」
「バイバイ」
礼くらい言わんかい。
と、思ったけれど、家を出る直前、ドアが閉まるほんの一瞬前、あたしのことを多分、見つめたレオさんが
「ほなみちゃん、」
名前を呼んだから、不意な出来事に、不覚にも、どきっとしてしまった。
初めて呼んだ。
音を立てた扉に、ギリギリかき消されなかった声。
ほなみちゃん、ほなみちゃん?
ほなみちゃん、なに?
何か言おうとしたんじゃない?
そんな気がして、あたしは閉まった扉を見つめてしばらく動かなかった。

