「……何の話かわからない?」
「……わかります」
「ああ、わかるんだ。毎晩毎晩、嫌がらせみたいにうるさかったでしょ?」
「え?」
「あれ、わざと。きみに聞かせてやろうって、意識的に。ここのアパート壁薄いからね。嫌がらせだよ」
「……」
「嫌がらせ」
自分がやったことなのに、レオさんの口調にはその行為への嫌悪が含まれていて、まるで他人の行動を非難するような口ぶりだった。あなたがやっているくせに。
芙美なら気持ち悪がる場面なのだろうが、あたしはその不自然さがおもしろかった。
どうしてそんな風に言うんだろう。変なの。
なにこの人、歪んでる。なんかおかしい。でもちょっとドキドキして、気分が高揚する。知りたい。と思う。この人の考えていることが。
歪で、曲がってて、ぐちゃぐちゃでめちゃめちゃに生きてる人間。
最低で最悪で人としての底辺で生きてる人間。
多分この人は、そういう種類の人間だと思う。最初は警戒したけど、この人の話を聞くと、ひどく安心した。
それが健全なものでないことは分かるけど。
「……あなたは、仕事とか、何もしてないの?」
「してないよ」
「秋元さんの借りた部屋で、秋元さんの稼いだお金で、秋元さんの買った煙草を吸って、暮らしてるの?」
「そうだよ」
「ヒモ?」
「そうだね」
意外とあっさり認めるんだ。なんとも思ってないみたいな風に。まるでそういう生き方が普通みたいに。ちっとも恥じてない。

