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「支部長補佐、会社のこと、知ってたんですね?」
「家で支部長補佐はやめてよ、トシくんでいいよ」

「……長谷川さん、知ってたんですよね?」
「意地っ張りだなぁ。サプライズって楽しいじゃん」

「会社にそんなもの、求めてません」
「機嫌直してよ、由紀恵ちゃ~ん」

「しかも、全然鬼じゃないし。聞いてたのと違います」
「え?俺、仕事には厳しいよ?今日だってあの書類の束はきつかったでしょ?3時間のリミットだし」
「いえ、あれは2時間有ればできる仕事です」
「あれ?でもお昼とってなかったよね?」
「そ、それは……」

やばい、思い出してしまった。耳許で囁かれた少し低く発せられた声。赤くなるのを隠そうと俯くが、家では邪魔だからと、頂頭部でお団子にしてしまった髪は降りてきて隠してくれることはなく、真っ赤であろう耳までもが丸見えだ。

「そんな顔されると、キスしたくなるじゃん。かわいっ」
と、俊哉が由紀恵の耳に指先で触れてきた。

「っひゃあぁ」
「ーえっ?」

由紀恵はヘタリと座りこんでしまい、俊哉は突然の出来事で状況が飲み込めず、固まった。

「…………めなのっ」
「え?なに?」

「ーー耳は駄目なの!触んないでッ!!」


涙目で由紀恵に怒鳴られ、

「…あ、はい。すみません」

と、俊哉はそれしか言えなかった。

少し気を取り直した由紀恵は

「これから、半径1メートル以内では気をつけてください」

と言い放つと、踵をかえして自室へ戻っていった。


大家さん、離れてください!