「支部長すみません、お世話になります」

「なに?夫婦喧嘩?」

「まだ結婚してません。あまりにも無神経過ぎるので、出てきました。でも、直ぐにアパート探すので暫く置いてください」

と床に額が付く程に頭を下げた。

今日は定時であがり、一旦家に帰って昨夜のうちに荷物を纏めたボストンバッグを手に、結実ちゃんと桜井支部長の愛の巣にお邪魔したのだった。

あのあと、電話で愚痴っていた結実に『しばらく家に来ません?部屋もちょうど一部屋あるし。ご飯作ってくれるなら大歓迎ですから』と言われ、甘えることにしたのだ。

「んで?長谷川とその元カノは復縁するのか?」

「たっくん、オブラートに包んで!ストレートすぎ」

「ごめん、ゆうたん」

「…ゆうたん……」

ここに来るのは間違いだったかも知れない……と由紀恵は思った。支部長のギャップもそうだが、二人が甘過ぎて今は毒にしかならない。

「あぁ、たっくん家でだけゆうたんって。さすがに外で言うのはね」

「俺は別にいいんだけどな」

と照れる様子さえ見せない支部長に、由紀恵もひきつった笑みしか出せなかった。


その時、

『ピンポーン』

とインターホンがなった。