──コンコン。「入っていい?」と由紀恵が尋ねると、カチャとドアが開き、「どうぞ」といつもより低音な声。

部屋に入ると、腕をきつく引っ張られベッドへと放り投げられる。

「なっ、ちょっ、んー!」

両手首を片手で拘束され、もう一方の手で口を塞がれた。

涙目になって俊哉を見つめると小声で、

「ちょっと静かにしてて。」

というので、コクコクと由紀恵が頷くと、すっと俊哉が離れていきドアを開けた。

「うわぁ!」

その瞬間、幾太を先頭にルートメイト全員が雪崩込んできた。

「盗み聞きとは、いい趣味だなお前ら。」

「あはは、いや由紀恵さんが無事か気になってー」

「心配無用だ。場をわきまえねぇ程がっついちゃいねーよ。とっとと出てけ。」

──パタン、ガチャン。

「えっ、鍵っ…」
「がっついてねぇって言ったろ。ヤらねぇよ。」

「あ、はい、すみません…」

ベッドに正座する由紀恵の横に俊哉が腰をおろした。

「イケメンがいいのかよ。」
「は?」

「さっき目の色変わったろ。」
「まぁ、世の女性で嫌いな人はなかなかいないかと…」

ギロッと横目で睨まれる。

「でも、トシくんもイケメンだけど?」
「なっ、その呼び方っ、卑怯だろ!」

「うわぁ、顔真っ赤…」
「……ふ、二人の時だけな、その呼び方」

「ふふ、気に入ってもらえた?…トシくん。」
「わ、わかったからっ。もう降参っ。」

ぼすっとベッドに突っ伏した俊哉を見て、ケタケタと由紀恵は笑いが止まらなかった。

一方、ドアの向こうで4人は、「なーんだ、つまんね」「本当ヘタレ」と言いたい放題で散々に部屋へと入っていったのだった。

笑っていた由紀恵だったが、
「でも、寂しくなるね。かなえさん…」と呟いた。

ムクッと顔だけ上げた俊哉が、

「そうだな。段々こうやって皆、旅立ってくのかな…。」

「ふっ、なんかお父さんみたいだね。」
「娘を嫁に出す、みたいな?」

「そうそう。ふふっ」

「お前は行くなよ?」

「え?」
「いや、何でもない。」

俊哉の小さな呟きは、由紀恵の耳には届かず、

「ん?」と首を傾げると、
「さぁ、風呂入って寝るかな。」と俊哉がベッドから立ち上がった。

「一緒に入る?」と冗談めかして聞く俊哉に、「うん、一緒に入る!」と由紀恵。

「へ?」と固まる俊哉を見て、また由紀恵はケタケタ笑いながら「冗談だよ。お先にどーぞ。」というと、

「おじさんをからかうんじゃない!」と真っ赤な顔で、由紀恵にチュッとキスをして、着替えを抱えて部屋を出ていった。