「千尋、もう食べた?」
「うん」
「じゃあ、いきましょ」
食べ終えた食器の載ったトレーを持って立ち上がった紀伊ちゃんに習って、私も鞄を肩にかけてトレーを持って立ち上がる。
「えぇー! もう行っちゃうの?」
にやけ顔の渋谷先輩を無視して歩き出す。
「またね?」
手をヒラヒラさせながら微笑んだ北本先輩に、黙礼だけした。
そこは、一応ね。
また、なんてないけど。
ざわつく店内を歩いて、食器の返却口へと向かった。
刺さる様な視線は全部女子からで。
本当、面倒くさいな。
彼らのお陰で悪目立ちしちゃったよ。
「いい迷惑ね」
紀伊ちゃんがぽつりと漏らした言葉に、無言で頷いた。
校内で有名な二人と一緒に食事なんて、味も分からなかったよ。
紀伊ちゃんとの、平和な時間を返してほしいわ。
「それじゃあ、また家でね。バイトの帰り気を付けて帰るのよ」
「うん。紀伊ちゃんもバイト頑張って」
校門で手を振って別れる。
お互いのバイト先は反対方向。
紀伊ちゃんのバイト先はマンションに近いけど、私が今日向かう家庭教師のお家は、電車に乗っていかないと行けないから、私は駅へと向かう。
本当、今日は散々だったな。
太陽の眩しさに目をしかめて、溜め息をつく。
昼食の後の休憩時間に、占いに来た女の子達に質問攻めに合った。
北本先輩達と知り合いなのか? とか、紹介してほしいとか。
面倒臭くて仕方なかった。
もちろん紀伊ちゃんが、上手く煙に巻いてくれたからなんとかなったけど。
もう関わってほしくないな。
興味本意で近付かれても迷惑なだけだよ。
顔の良い男なんて信用できないよ。
しかも、遊び人だとかもっと信用できない。
みんなに優しい男なんて、ろくなもんじゃない。
大翔みたいに、流されて裏切るんだ。
チクリとした胸を服の上から押さえる。
もう何年も前の事なのに、未だに私の中でジクジクしてる。
大翔の事はもう好きじゃないのに、嫌な思い出だけが残ってしまった。
幼馴染みで、ずっと側に居た大翔に気がついたら恋をしていて。
大翔に告白されて両思いだと受かれてたあの頃、付き合って一年もしない間に、大翔は私を裏切った。
ぽっと現れた女の子に横からかっさらわれるなんて、思いもしなかった。
私とはキスしかしなかった大翔が、あの子を抱いたって聞いた時、死ぬほど苦しかった。
もう・・・あんな思いはしたくない。
占いで不幸になった分、私は占いで絶対に幸せになってやるんだから。