自宅のリビングのソファーに深く座って、遠くを見つめながら、ぼんやりと思う。


あの日以来、北本先輩と出掛けることが増えた。

断りきれないでいるのは、彼に対して恩義があるからよね。


北本先輩と居ると女の子達の視線が痛くて嫌なのに、彼のスマートなリードが心地いいと思ってる私がいる。


このままじゃダメなのは分かってる。

だけど、北本先輩の告白に、一歩踏み出せない。


遊ばれてるのか、からかわれてるのか。

そんな思いが残ってるから。


だって・・・あんな遊び人だった人が、私だけを思ってるなんて、まだ信じられないんだもん。

付き合っても、大翔みたいに浮気されたら、今度こそ自分が立ち直れなくなりそうで。


あ~こんなの私が北本先輩の事を好きみたいじゃない。






「千尋、ぼんやりしてどうしたの?」

お風呂から出た紀伊ちゃんが私の顔を覗き込む。


「あ・・・うん・・」

何でもないって言おうとして、言葉に詰まる。

色々悶々としてるのは確かだから。


「なんでもあるんでしょ。千尋は分かりやすいわね」

紀伊ちゃんはそう言って笑うと、首にバスタオルをかけたまま私の隣へ座った。


「・・・そんな分かりやすいかなぁ」

「私達、どれだけの付き合いだと思ってるのよ。千尋が悩んでることぐらいお見通しよ」

自信たっぷりに笑う紀伊ちゃんには、きっと隠し事なんて出来ないんだろうな。


「・・・悩み・・なのかな?」

これって。


北本先輩の事なんて好きじゃないのに、気がつけば考えてる。

彼が女の子に愛想よく笑ったりしてるのを見るとモヤッとしたりもする。

その理由はわからないけれど。


「北本先輩でしょ。千尋を悩ませてるのは」

北本先輩がやれやれと首を左右に振る。


「ん・・・まぁ、そうだけど」

「どうしてあいつなのよ・・・と思うけど、今の北本先輩は誠実だと思うわよ」

嫌そうに顔を歪めたあと、諦めたように紀伊ちゃんは言う。


「北本先輩は、自分に靡かない私に意地になってるだけかも知れないよ?」

「バカね。あれはそんな器用じゃないわよ。ムカつくけど、真っ直ぐに千尋だけを見てるよ」

言葉の端々に北本先輩への嫌味を加えつつも、紀伊ちゃんは北本先輩を擁護する。