「ここのアイスクリームが美味しいんだ」
次に北本先輩が連れてきてくれたのは、移動販売の可愛らしいアイスクリーム屋。
女の子達が沢山並んでる列に、私の手を引いて並んだ。
「アイスクリームですか?」
「そ、食べようね」
私に向かって微笑んだ北本先輩に、並んでいた女の子達が色めき立つ。
ここでも、モテモテだ。
「まぁ、良いですけど」
素っ気なく返してしまうのは、素直になれないからなのかも知れない。
北本先輩は、女の子の喜ぶことを沢山知っていて、今までもこんな風にデートしてきたのかな。
モヤモヤした気持ちを隠すように、すぐ側に展示されていたアイスクリーム屋のメニューに目を向ける。
「千尋ちゃんの髪って綺麗だよね」
おもむろに私の髪を一房手に取った北本先輩に、むず痒くなる。
「・・・そ、そうですか」
「うん。天使の輪も綺麗に出てるし。手触りも気持ちいい」
「・・・・・」
天使の輪って。
キャッと女の子の声が側で漏れ出る。
チラリと見たそこには、頬を赤く染めた女の子。
羨ましそうにこちらを見てるその子達に、小さく溜め息をつく。
晒し者だ。
完全に・・・晒し者だ。
お願い、早く髪から手を離してぇ。
「何か、手入れしてるの?」
「あ、はい」
紀伊ちゃんが言う通りに、美容院でお手入れしてもらったり、家でも髪が痛まないように気を付けてる。
「そっか。綺麗な髪の女の子っていいよね」
北本先輩がそう言った途端に、こっちを見ていた女の子達が自分の髪を気にし始めた。
凄いな北本先輩。
「そう言う北本先輩も綺麗な色ですよね」
北本先輩の髪は少しブルーがかった焦げ茶色。
長めの前髪がさらさらと揺れてる。
「そう? 俺は特になにもしてないけどね。髪を洗って乾かすぐらいだし」
上目使いに自分の前髪に触れた北本先輩は、やけに色気があった。
ますます女の子達がざわめく。
何もしてなくてそんなにサラサラなんて、ちょっと狡いと思った。
イケメンは色々お得にできてるのかもなぁ。
「アイスクリーム食べたらどうしようか?」
「えっ?」
まだこの後、どこかに行くつもりですか?
「だって、涼香のカテキョまで、まだまだ時間があるでしょ?」
「まぁ、そうですけど」
ちょっと疲れてきたし、一回家に帰りたい。
女の子達から突き刺さる視線も居心地悪くて仕方ないし。
「だったら、まだ楽しまなきゃ」
「・・・・・」
この顔は、きっと何を言っても譲らないんだと思った。
カテキョの時間まで、北本先輩の思う場所を連れ回されたのは言うまでもない。