「そう言えば、最近よく声をかけられる言ってたわよね」

紀伊ちゃん、ここで突っ込まないでよ。

困った顔で紀伊ちゃんを見る。


「それは道を聞かれてるだけだよ」

「多分、それ本気で道を聞いてる訳じゃないわ」

「紀伊ちゃんの言う通りだと、俺も思う」

北本先輩までそんな事を言うなんて。


「道を聞いてくるのって、若い男が多いでしょ?」

ニヤリと笑う渋沢先輩。

「・・・そう言われたら・・そうかも」

記憶を探ってみたら、そうだった。


「完璧ナンパじゃん」

人に向かって指差さないでください、渋沢先輩。


「ああ、間違いないな」

大きな溜め息をついた北本先輩。

そんな顔しなくても良いんだけどなぁ。


「別に危なかった事はないですよ」

「いや、マジで一緒に帰ろう。カテキョの後は送っていくし」

「そんな大袈裟な」

と笑ったら、

「今の千景は大袈裟な方がいいのよ」

紀伊ちゃんまでそんな事を言い出した。

みんな、本当、心配症だな。


「無自覚なのか、呑気なのか、わかんない子だよね」

煩い、渋沢先輩。

「呑気じゃないし」

唇を尖らせて抗議した。


「ダメだよ、千景ちゃん。こいつにそんな顔を見せちゃ」

そう言いながら北本先輩がニヤニヤ笑う渋沢先輩の視界を遮っていた。




「あ、あの・・・」

その声に全員が目を向ける。

そこにいたのは二人組の女の子。

背の低い可愛い女の子と、背の高い派手な化粧の女の子。



紀伊ちゃんが面倒臭いって顔で水を飲む。

確かに面倒だよね。

女の子が声をかけたのは、きっと北本先輩達だ。


「何々? 俺達に用?」

渋沢先輩がにっこりと笑う。

紀伊ちゃんに教えられてから、この微笑みが胡散臭いとしか思えないなぁ。


北本先輩は興味無さげに女の子達から視線を逸らしてる。

前までは北本先輩も、渋沢先輩と同じ様に笑顔で出迎えてたのに。


「はい。北本君」

ああ、北本先輩に用があるんだね。

でも、北本先輩は女の子を見ない。


「呼ばれてんよ、倫」

「俺は用ないよ」

冷やかした渋沢先輩に、冷たく返した北本先輩。


女の子は涙目になっていく。

可哀想だなぁ。

少しぐらい話してあげたら良いのに。