ー紀伊sideー
目の前の男を観察する。
少し前から女遊びをしてないって噂は流れてた。
でも、そんなの信用できるはずはなかった。
元々品行方正な奴じゃないから、千尋に近付かないように牽制してきたし。
千尋の変装がバレないようにも気を付けてた。
たまたま、偶然が重なって美少女の千尋に気付かれちゃった事は、私の中ではかなりの緊急事態で。
純情な千尋に、こんな遊び人絶対に似合わない。
今でも、そう思うけど。
千尋を見つめる瞳や、さっきの言葉で真剣なのが伝わってきてしまった。
そして今、千尋の呪縛を完全に取り払おうと頑張ってる姿に、私が抵抗できるはずもなかった。
千尋に渡した雑誌だって、きっと色々な雑誌の中から選んできたんだろう。
千尋にとって良い占いが載ってる物を。
この男ならやりかねない。
千尋を必死に説得してる姿も、ムカつくけど格好いいじゃない。
北本先輩から受け取った雑誌を必死に見つめる千尋。
この子が本当の自分に戻る手伝いを、私は出来なかった。
どうやって助けてあげたらいいのか分からずに、一緒に逃げちゃったのよね。
悔しいけど、千尋が過去と決別できたのも、今まさに変わろうとしてるのも、北本先輩の力だ。
こんな女ったらし、本当なら信じないけど。
あんな真剣な目をされたら、ダメだとか言えないじゃないのよ。
遊び半分で千尋に近付くつもりなら、容赦しないけど。
本気で千尋を思ってくれてる彼を拒んだり出来ないよ。
ほら、今だって、千尋に新しい未来を選択させようとしてるんだもの。
「千尋ちゃん。勇気を出して雑誌を開いて」
「・・・・・」
「きっと一歩を踏み出せる勇気を貰えるから」
臭い台詞なのに、かっこいいじゃないのよ。
「新しい未来?」
そう聞いた千尋の声は震えていた。
怖いよね・・・何年も偽ってきた自分を捨てるのは。
地味な変装を隠れ蓑にして、千尋は生きてきた。
占いに負けた自分と戦うために。
「千尋、そろそろ変わろう」
貴女には貴女らしく生きて欲しい。
中学校の頃のように無邪気に微笑んで、幸せになって貰いたいよ。



