「う~ん、困ったなぁ。欲しい物って言ってもね」

北本先輩は困り顔で腕組みをして首を傾げた。

イケメンはそんな仕草も様になる。


「何か思い付きませんか?」

精一杯の感謝を伝えたい。

私が前を向いて進めるようになったから。


「そうだな・・・物じゃなくちゃダメかな?」

上目使いで聞いてきた北本先輩は、

「千尋の体とか言ったら、絞めるから!」

と紀伊ちゃんに脅される。


「ククク、そんな事言わないよ」

口を開けて笑った北本先輩。


「千尋の恩人でも女ったらしには違いないのよ」

「俺って信用ないんだね」

「ええ、聞くまでもないわ」

紀伊ちゃん、お礼を言いに来たのに好戦的にならないでぇ。


「おかしいなぁ。最近女の子とは遊んでないんだけど」

「飽きただけじゃないんですか?」

冷たい目を向ける紀伊ちゃんに、

「そんなんじゃなくて。信用してもらうために一途になろうと思ったんだよねぇ」

とへらりと笑った北本先輩。


どうやら、北本先輩は好きな人が出来たらしい。


「それはいいかも知れませんね」

女の子は一途に愛されたいと思うものだし。


「でしょ? 俺、信用してもらえるように頑張るね」

「はい。影ながら応援してます」

相手の人は知らないけど、ぜひ頑張って欲しい。


「あ~そうきたかぁ・・・」

への字に眉を下げた北本先輩。

えっ? 応援要らなかったのかな。


「北本先輩・・・まさか。本気になったの?」

紀伊ちゃんが、私をちらりと見た後、嫌そうに北本先輩を見る。


「あ、うん。そのまさかだね」

飾りのない笑顔を浮かべた北本先輩と、

「うわ・・・最悪。嫌な予感してたのよ」

やたらと落胆した紀伊ちゃん。


二人はなんの話をしてるんだろうか。

私はすっかり茅の外だ。


「北本先輩が本気なら・・・私にとやかくいう権利はないけど・・・強引な事はしないでくださいね」

「分かってるよ。マイナスからのスタートだし、じっくりと時間をかけるつもりでいるよ」

「その言葉信じていいんでしょうね」

「ああ。神に誓うよ」

「それが一番胡散臭い」

紀伊ちゃんが眉間にシワを寄せた。


「今までとは違うから。俺も本気なんだ」

真っ直ぐな北本先輩の瞳は真剣だ。

「そう・・・分かったわ」

紀伊ちゃんは項垂れたように溜め息を一つついた。