「まぁ、今だけ大人しいだけかも知れないけどね。声をかけるなら好都合かもよ」

「うん。明日、声をかけるよ」

「了解」

「紀伊ちゃん、面倒なことお願いしてごめんね。いつもありがと」

「バカね、なに言ってんのよ」

照れ臭そうに笑う紀伊ちゃん。

美人な紀伊ちゃんは、隠れツンデレで可愛いんだよね。


「北本先輩には私も感謝してるしね。千尋がお盆に安心して実家に帰ることが出来るんだもの」

「そうだね」

この間、お母さんにお盆に帰るよって連絡したら、電話口で泣かれた。

その時、ずっと親不孝してたんだなって思ったよ。


「お盆に帰ったら、中学の友達みんなで一杯遊ぼ」

「うん、遊ぶ」

今まで出来なかった分まで遊ぶよ。

大翔と遭遇するのを怖れて、地元じゃあまりウロウロしていなかったもん。


「茂樹(シゲキ)だけは一回絞めるけどね」

紀伊ちゃんが黒い笑みを浮かべる。

「アハハ、お手柔らかにね」

肩を竦めた。

茂樹君は、今回大翔に私達の住む街を教えちゃった男の子。

大翔と共通の友達だったんだけど。

遊んでる時に、ポロリと私達の大学の名前を出しちゃったらしい。

それで、大翔が大学の住所を調べて、この街に来ちゃったの。

家の場所は流石に分からなかったらしくて、行き当たりばったりで繁華街をふらついていた所に、運悪く私が登場してしまった。

事の顛末はこんな感じ。


茂樹君、前からうっかりさんなんだよね。

まぁ、今回は災い転じて・・・って感じだけど。


「あいつのうっかりに千尋が苦しめられたのは間違いないからね。しっかりと償わせるわ」

そう言った紀伊ちゃんの瞳がギラリと光る。


茂樹君、ご愁傷さま。

紀伊ちゃんは随分とおかんむりだよ。

茂樹君をどんな目に遇わせようかと、悪戯っ子みたいな顔で画策する紀伊ちゃんを見つめながら苦笑いした。