「あ~あ、可哀想に手首赤くなってるね」
北本先輩は大翔を無視して私の腕を擦る。
触れられたそこに痛みを感じた。
「・・・っ、北本先輩」
顔だけ振り返ると、北本先輩は心配そうな顔で私を見下ろしていた。
「大丈夫?」
その言葉に、悔しいけどホッとした。
北本先輩がどうしてここにいるのか? とか思いながらも、さっきから私を襲ってた胸の痛みは消えたんだ。
「・・・はい」
安心した事で涙が滲んだ。
「俺を見てホッとしてくれるなんて嬉しいねぇ」
北本先輩が綺麗に微笑む。
その顔は、いつもの北本先輩だ。
「お前、誰だよ? 千尋を離せ」
大翔が北本先輩に突っかかる。
「さっき言ったけど? 俺の彼女だって」
低い声で言う北本先輩は、私と目が合うとさりげなくウインクした。
ここは、北本先輩の話に乗った方が良さそうだな。
「はぁ? 千尋、嘘だよな」
私に聞いてくる大翔。
そんな悲しそうな目をされても、私はもう貴方になにもしてあげられないんだよ。
「千尋」
不意に名前を呼ばれて、北本先輩を見上げる。
「はい」
「この彼は誰?」
北本先輩の瞳の奥がギラリと光ったような気がした。
「お、幼馴染み」
そう、もう大翔は幼馴染み以外の何者でもない。
「ち、違う。俺は千尋の・・・」
大翔はそう言いかけて言葉に詰まる。
「もしかして、元カレ?」
北本先輩は大翔の言葉を引き継ぐようにして私に訪ねた。
「・・・あ、中学の頃に付き合ってました」
もう何年も前。
「そっか~すっごい昔の元カレだね」
意地悪く口角を上げた北本先輩は、大翔に向かって挑戦的な目を向けた。
「・・・くっ」
悔しそうに奥歯を噛み締めた大翔は拳を握りしめてる。
「もしかしてさぁ。千尋が今でも自分を思ってるとか自惚れてたりして」
ハハハとバカにした笑みを浮かべた北本先輩は、さらにこう続けた。
「千尋には、俺みたいな極上の彼氏がもう居るんだよね。残念でした」と。
北本先輩、自分で極上って、先輩らしいですよ。
変な緊張が溶けていく。
北本先輩のいつものペースは、今の私に心地いい。
「そ、そんな、嘘だよな? 千尋」
「・・・私にとって大翔はもう過去の人だよ」
だから、追い求めるのはもう止めて。
大翔にとっても、私にとってもマイナスにしかならないんだよ。



