「先生、行こう。お兄ちゃんが起きてくる前に」
涼香ちゃんは私の手を引く。
そうだ、早く退散しないと。
寝てるだろう北本先輩が起きてくる前に。
涼香ちゃんの話では休みの前は遅くまで遊び歩いているので、朝早くだと寝ているので会うことはないと。
それを見越して、早めに迎えに来た。
もし起きてる場合は、鏡花さんが家から少し離れた場所に涼香ちゃんを連れてきてくれる算段になっていた。
「うん、そうしようね」
フフフと笑って彼女に引かれるように歩き出す。
「あ、神宮寺先生、お待ちになって」
サンダルを履いて鏡花さんが近づいてくる。
振り返った私に、鏡花さんが白い封筒を手渡してくる。
「こちらを使ってくださいな」
「あの・・・」
「少しだけどお小遣い」
フフフときれいに笑う鏡花さんに、
「ありがとうございます」
と素直に封筒を受け取った。
きっと、この場で受けとって、受け取らないのやり取りをしても無意味だと思うから。
私に封筒を差し出した時の鏡花さんの瞳は譲らないと決めてたみたいだし。
「二人とも気を付けていくのよ。涼香は神宮寺先生の言うとこをよく聞いて」
「はいはい。もう何度も言わなくても分かってるから」
鏡花さんの言葉に涼香ちゃんは私の腕にしがみついて、膨れっ面になる。
「じゃあ、夕飯までには帰ってきますね」
鏡花さんに頭を下げて、涼香ちゃんと歩き出す。
さて、今日はどうやって楽しもうかな。
モヤモヤしてた気持ちを吹き飛ばすほど、楽しまなくちゃ。
隣で満面の笑みを浮かべる涼香ちゃんを見てそう決めた。
「取り合えず繁華街の方に行こうか? 色んなお店があるし」
「うん、楽しみ」
「可愛い洋服とかも見ようね」
鏡花さんに、涼香ちゃんの夏服も見てきて欲しいと頼まれてるし。
「可愛いカフェにも行きた~い」
「調べてきたよぉ。可愛いパンケーキ屋さんがあるんだよ」
占いに来た女の子達から情報は仕入れてきた。
女の子好みのカフェだって行ってたし、涼香ちゃんもきっと喜んでくれるはず。
「わ~い、楽しみ」
「フフフ、私も」
二人で顔を突き合わせて笑い合う。
だから、上からこちらを見てる視線に気づいていなかった。