大翔の手紙を受け取ってから、一週間が経った。

なにも変わらない日常が続いてる。


だけど、前を向くために向き合って欲しいと言うお母さんと紀伊ちゃんの思いに答えるために、お盆休みの帰郷は決めた。

大翔と会う約束をした訳じゃないけれど、地元に戻ることで私の意識を変えようと思うんだ。

会いたがってくれる両親や地元の友達に、これ以上心配はかけたくないし。

胸を張って地元に帰ろうと思う。


そして、大翔と向き合う機会があったならば、今度こそ本当にさよならを告げたい。

曖昧なまま別れてしまったことが、私の心も大翔の心も縛り付けてしまったのかも知れないし。


今も大翔を好きなのか? と言われたらそうじゃない。

恋愛感情はもうない。


頑張ろ・・・色々と。


さぁ、気分を切り替えなきゃ。

今日は涼香ちゃんとの約束の日だもんね。

余所様の娘さんを預かるんだから、ぼんやりなんてしてらんないよ。


すっかり訪れなれた白亜の豪邸の前に立ち止まって、インターフォンを押した。


『はい』

「神宮寺です。涼香ちゃんを迎えに来ました」

『直ぐに開けます』

門の開く音がして、さらに玄関が勢いよく開く。


「先生、いらっしゃい」

可愛い格好をした涼香ちゃんが出迎えてくれる。  
 
今日のお出掛けを相当楽しみにしてくれてた事が分かる。


本当可愛いなぁ。


「もう、涼香、裸足で急に飛び出さないの。神宮寺先生も驚いてるわよ」

涼香ちゃんの後ろから、苦笑いの鏡花さんが顔を出す。


「は~い、ごめんなさい」

素直に謝る辺りも可愛い。

私の小学生時代もこんなだったかな?

今でもあんまり思い出せないけど。


「こんにちは、今日は涼香ちゃんをお預かりします」

鏡花さんに向かって頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくお願いします。お忙しいのに無理を言ってごめんなさいね」

申し訳なさそうに言われたので、

「実は私も楽しみなんで大丈夫です」

と笑った。


「やった! 先生も涼香と出掛けるの楽しみなんだって」

嬉しそうにその場で飛び上がる涼香ちゃん。


「もう。落ち着いて神宮寺先生の言うことを聞くのよ」

「は~い」

涼香ちゃんは生返事で靴を履き始める。


「神宮寺先生、言うことを聞かないときは叱りつけてやってくださいね」

「はい」

とは返事したももの、きっと涼香ちゃんは叱るような悪さはしないと思います。