「おばさんの言う手紙ってこれのことね」

後で見ようと置いてあった未開封の封筒を紀伊ちゃんが手に取る。


お母さんが大翔から預かったと言う手紙には、何が書かれているんだろうか。


「・・・こんなの要らないよ」

今さら、何を言われても苦しいだけだよ。

どんなに話をしても、どんなに時間が経っても大翔がやったことは変わらないし。


分かってる・・・大翔だけが悪いんじゃないってこと。

あの時の私には、大翔を引き留めて置くだけの魅力が無かったことも。

彼女の誘惑から大翔を守れなかった責任が私にもあるってことも。


だけど、許せないんだ。

誰かに触れた大翔に触れられる事も、嫌悪以外の何物でもない。

穢らわしいと・・・感じてしまう。


離れてしまえば、苦しまないでいいとこんな所まで来たのに、私はまだ囚われたままなのかな。


「千尋、私が読んでもいい?」

紀伊ちゃんが意を決して私を見る。


「うん」

私は見たくないもん。


「ありがと、読むね」

紀伊ちゃんはそう言うと封筒を乱暴に開いて、中から便箋を取り出した。


目だけで読み進めていく紀伊ちゃんの顔がどんどんと険しくなっていく。



「チッ、あのバカ、絶対に絞めてやる。今さらどの面下げてこんな手紙書いてるのよ。無視でいいわ」

読み終えた紀伊ちゃんが、便箋をくしゃりと握りしめる。


「・・・・・」

「内容しりたい?」

どっちでもいいのよ、と紀伊ちゃんは言う。


知っておいた方がいいんだろうな。

でも、知るのが怖いと思う私もいる。



「千尋、いつまでもあんな奴に囚われてちゃダメだと思う」

「・・・うん。分かってる」

「だったら。一度向き合ってみる? 千尋には黙ってたけど、大翔の奴、地元の友達に千尋の居場所を聞いて回ってるのよ」

「えっ?」

どうして? 大翔は彼女を選んだのに。


「向き合って、吹っ切らなきゃ千尋はいつまでも引き摺ってしまうような気がするのよ」

「・・・そうだね」

力無く笑った私に、紀伊ちゃんは微笑む。


「そろそろ前に進も。千尋は新しい恋をして幸せにならないと」

「紀伊ちゃん・・・分かった」

頷いた私に紀伊ちゃんは、ゆっくりと口を開いて手紙の内容を伝えてくれた。


大翔からのメッセージは、誰と過ごしても私を忘れられないと。

どうしても会って話がしたい。


彼の自分勝手な言い分に思えた内容に、苦笑いを浮かべたのは、長い時間の間に私の中から大翔が薄れていっていたのからかも知れない。