「はい、先に見ていいよ」

紀伊ちゃんの逸る気持ちを優先してあげる。

そんなにうちのお母さんの手紙を楽しみにしてくれてるなんて、嬉しいし。


「ありがとう」

嬉しいそうに受け取った紀伊ちゃんは、急いで封筒を解放する。

私はそれを横目に、箱の中身を分別していく。


庭で取れたらしい野菜もチルドパックに入ってる。

クール宅急便で送ってくれてるから、鮮度は落ちてなさそう。


「千尋、封筒の中にこんなの入ってたよ」

折り畳まれた封筒を紀伊ちゃんが差し出す。

ん? なんだろう。


「何かな?」

受け取ったももの、なんだか開けるのに戸惑う。


「先におばさんからの手紙を読んでみる?」

「そうしようかなぁ」

嫌な予感がするんだよね。

それは紀伊ちゃんも同じ様で、私の持つ手紙をしかめっ面で見ていた。


「こっちが、千尋宛だよ」

「ありがと」

二人でお母さんからの手紙を読み始める。


いつも書き出しは元気にしてる? って言葉で、それからは食生活を心配してる文字が続く。

結構、頻繁に電話してるのに、手紙でまで心配してくれるお母さんに感謝だな。


読み進めていくうちに、いつもとは違う文字が綴られていく。


目に入ったその文字に、手紙を持つ手紙を震えた。


大翔が、うちに来て私の居場所を知りたいと土下座したと。

お父さんが怒り心頭に追いかけしたことも書いてある。



どうして、今さら。

今まで、なにもなかったよね。


大翔の浮気がバレて、別れた当初は会いに来たり電話が来たりしてだけど。

全部、拒否し続けたらいつしかそれも無くなったのに。


それなのに、何年も経った今になってどうして。



「千尋、どうしたの? 顔が真っ青だよ」

私の異変に気付いた紀伊ちゃんが心配そうに顔を覗き込んで来た。


「き・・・紀伊ちゃん、大翔が」

そう言うのがやっとだった。

込み上げてくる胸のむかつきに、喉が詰まる。


「大翔? どう言うこと!」

声に怒りを含んだ紀伊ちゃんに、お母さんの手紙を差し出した。

紀伊ちゃんはそれを受けとると素早く目を通す。



「あのバカ! 今さらなんだって言うのよ。千尋をまた苦しめようって言うの」

ダンッと床を握り締めた拳で叩き付けた紀伊ちゃん。


大翔の亡霊に、いつまで囚われ続けなきゃいけないんだろうね。

息苦しさに目を瞑った。