「まったく、あいつらって意味分かんないわよね」
脱衣場の方から紀伊ちゃんの声が聞こえてくる
きっと北本先輩達の事だ。
お風呂に入りながら、イライラしてたんだろうね。
「あんまり構わないで欲しいよね」
北本先輩達が来ると女の子達の視線が刺さって痛いし。
「本当よね。何が紀伊ちゃんよ。勝手に名前呼ぶんじゃないわ」
うちの女王様は相当お冠だ。
「確かに北本先輩も千尋ちゃんて呼ぶんだよね」
親しげに呼ばれるのは本当困るな。
最近は勝手にソフトタッチしてくるし。
クレープ屋で口元に指を触れられた時の感覚が蘇って、なんだか恥ずかしい気持ちになる。
あんなの反則だよ。
「北本先輩、千尋に気があるのかしらね?」
そう言いながらリビングに姿を表した紀伊ちゃんに、
「それはないでしょ? 紀伊ちゃんの考えすぎだよ」
と苦笑いする。
瓶底眼鏡のひっつめ髪の女の子に触手が動くとか、それこそどうかしてると思う。
「そうだったら良いけど・・・」
浮かない顔をした紀伊ちゃん。
北本先輩みたいなイケメンにとったら、私みたいな変なのは物珍しいだけだと思うけどなぁ。
紀伊ちゃんの話を聞きながら、届いたばかりの荷物を開封する。
「宅配届いたの?」
「うん、お母さんから」
段ボールのガムテープを剥がして顔を上げた。
「うわ、また一杯送ってきてくれたね」
開けた箱を覗き込んで笑う紀伊ちゃん。
缶詰や即席ラーメンなどの、保存食品が沢山詰まってる。
「本当、こっちにも色々売ってるのに」
「千尋が心配で仕方ないのよ」
「ん、ありがたいな」
実家にあんまり帰ってない娘なのに、お母さんはいつも心配してくれる。
こんな風に思われてる事が幸せだね。
「お、手紙入ってるよ」
紀伊ちゃんが段ボールの前にしゃがみこんだ。
「本当」
荷物の隙間に挟まってるそれを掴みとる。
今回の手紙はなんだから分厚いな。
「早く開けてみてよ」
紀伊ちゃんはお母さんからの手紙を毎回楽しみにしてくれてる。
お母さんは紀伊ちゃん宛に書いた便箋も入れてたりするんだよね。
紀伊ちゃんが小さい頃に母親を亡くしてるって知ってから、自分の娘のように可愛がってるんだよね、うちのお母さん。



