「今はクレープはいいかな。今度、何か思い付いたらお願いするよ」

悪い顔で笑った北本先輩。

この男、千尋に何を頼むつもりよ。


「いえ、今奢ります」

おぉ、千尋も強気だ。


「フフフ、頑固。でも、俺達もそう長居出来ないんだよね。これからバイトなんだ。ね、慧」

だったら、寄り道せずに行ってればいいのに。


「そ、バイト。何してるか、知りたい?」

私に聞いてこないでよ、知りたくなんてないから。


「渋沢先輩のバイト先に興味はないですよ」

「その冷たい瞳が最近堪んない」

変態がここにいますよ。

渋沢先輩に軽蔑した視線を向けた。


「変態・・・」

千尋がポロリと本音を漏らした。


「酷いなぁ、占いババちゃん」

「慧、千尋ちゃんをその名前で呼ぶなって言ったよね」

おどけた渋沢先輩に、北本先輩が射抜くような視線を向けた。

「はいはい。悪かったよ」

軽い口調でそう言って、両手を上げてヒラヒラさせた渋沢先輩。


「次はないからね」

低い声でそう言った北本先輩に背筋が寒くなった


なんだろう、この温度差。


まぁ、占いババの件に関しては北本先輩に賛成だけど。


「へ~い。お、そろそろ行くか」

渋沢先輩はスマホで時間を確認すると、飲み物の入ったプラスチック容器を手に持って立ち上がる。


「そうだね。千尋ちゃん、またね」

頷いた北本先輩も立ち上がると、千尋に微笑んだ。


「・・・・・」

千尋は無言で北本先輩を見上げる。

またなんて無いって思ってる顔だ。


「紀伊ちゃん、俺達この先のバーでウェイターやってるから気が向いたら来てよ」

「渋沢先輩、私達まだ未成年なのよ」

わざわざ行くわけないでしょ。


「心配しなくてもソフトドリンクもあるから」

「そんな問題じゃないから」

つっけんどんに返す。


「名刺置いてくから。いつでも来てよ」

渋沢先輩は胸ポケットから名刺を一枚取り出すとテーブルに置いた。

「いらないわよ」

と言ってるのに、歩き出した北本先輩を追い掛けて渋沢先輩は去っていく。

なんなのよ、あいつ。



「結局何しに来たんだろうね」

小さくなっていく二人の背中を見つめながら千尋が言う。


「本当、なんなのよ」

イライラした気持ちと、浮かんだ謎に私は大きな溜め息を漏らした。





ーendー