ここは、早く退散するしかない。
急いで大きめのクレープを平らげていく。
千尋は、ちまちま食べ続けていたおかげで、もう少しで食べ終わりそうだ。
「そんなに急がなくてもいいよ」
北本先輩は苦笑いする。
「急ぐよ。長居は無用だもの」
貴方達が現れたせいでね。
そう言いたいのを我慢して口の中のクレープを咀嚼する。
「そう言わずに楽しく会話しようぜ」
飲み物を勝手戻ってきた渋沢先輩が参戦してきた。
「どう考えても楽しくなるとは思えないけど」
この二人とお茶だなんて、落ち着かない。
周囲の視線も、かなり増えてきてるし。
女の子達の視線が突き刺さってるのよ。
「さっきまで紀伊ちゃんと二人で楽しかったのに」
千尋が残念そうに眉を下げる。
本当、その通りよ。
「俺とも楽しくしよ」
北本先輩が言うと別の意味に聞こえるのはなぜかしらね。
「楽しくなる要素がまったく掴めない」
千尋の歯に衣を着せない攻撃が出る。
この子、大人しそうに見えて、中々言うのよね。
「本当、千尋の言う通りよ」
隣に座った渋沢先輩を睨み付けた。
「まぁまぁ、落ち着いて。倫、カフェオレ」
ナハハと笑ったあと、渋沢先輩は買ってきたカフェオレを対面の北本先輩に差し出した。
「ありがと、慧。お金後で渡すよ」
「いいよ。これぐらい奢ってやる」
太っ腹な渋沢先輩。
「サンキュ」
「おう」
笑い合うイケメン二人に、周囲から吐息が漏れる。
本当、イライラするわね。
自分達が格好いいって分かってる奴らが、やたらと鼻につく。
「千尋ちゃん、今日はバイト休み?」
「はい」
「あれから危ない目にあってない?」
「・・・その節はありがとうございました」
千尋、今思い出したわね。
「いいよ。そう言えば改めてお礼するって言ってなかったっけ?」
悪い顔で笑った北本先輩。
「・・・あ」
千尋、それも忘れてたのね。
「ハハハ、忘れてたでしょ?」
北本先輩に見透かされるじゃないよ。
「わ、忘れてません」
動揺しすぎ、千尋。
目をキョロキョロさせて、可愛いけど、今は不味いよ。
「じゃ、一つ貸しにしとくね」
「今、今何か奢ります」
焦ってる千尋を助けるように、北本先輩に声をかけた。
「ここのクレープ美味しいですよ」と。



