「俺、買ってくるわ。倫は何飲む?」
「カフェオレ」
「了解。引き続き席取り頼むな」
何が席取りよ、店内へと小走りする渋沢先輩の背中に心の中で毒づく。
「千尋ちゃん、それ美味しそうだね」
ちまちまとクレープを食べてる千尋に向かって極上の笑みを浮かべる北本先輩。
その瞳に熱があるのを感じ取って、嫌な予感がした。
もしかして・・・千尋の事を好きになったとか言わないでしょうね。
「美味しいけど、あげませんよ」
私の心配をよそに千尋は安定の冷たい態度を見せる。
この子、大翔のせいで、イケメンを極度に嫌がるのよね。
「ええ~一口ぐらいちょうだいよ」
「嫌ですよ」
体ごと、北本先輩に横を向く千尋。
「ククク、相変わらず冷たいな」
「煩いです」
「生クリームついてるよ。ん、甘いね」
北本先輩は素早く千尋の口元に指を伸ばしてそれを拭うと、そのまま口にくわえた。
この行動にギョッとしたのは、千尋と私。
甘いね、じゃないわよ。
なに? このラブラブカップルぶり。
内情を知らない他人から見たら、恋人達が戯れてるような光景なんですけど。
「ち、千尋に手出ししないで。この子は簡単に遊んでいい子じゃないの」
我に返った私は慌ててそう忠告する。
「まだ、何もしてないよ。まだね? それに遊ぶつもりはないよ」
意味深にそう言うと微笑んだ北本先輩に、頭の中で警告音が鳴った。
まさか、こいつ、千尋に・・・そう考えて、ふっと気づく。
千尋がバイクにひかれそうになった日。
もしかして、北本先輩は千尋の顔を見たんじゃないかってこと。
千尋は見られてないと思ってるけど、本当はそうじゃないのかも。
思い浮かんだ仮説に、ぞわぞわと何かが蠢いた。
前々から、千尋の事を気に入ってる節はあったけど、この子の素顔を見て、それが更に加速したのかも知れない。
なんてこと・・・なんてことよ。
こんな女ったらし、ダメに決まってる。
女遊びばっかりしてる男が、千尋一筋になるわけない。
大翔みたいに、浮気して裏切って千尋を傷付けるに決まってる。
握り締めた掌にじわりと嫌な汗が滲んできた。



