無事に大学を出て、目的のクレープ屋を目指す。



「紀伊ちゃんとクレープ屋さんに行くの久しぶりだね」

嬉しそうに口元を緩める千尋。


「本当、入学当初はよく行ってたわよね」

「うん」

お互いにアルバイト生活に入ってからは、なかなか都合が合わない。

大学が休みの日に遊びに行くことはあるけどさ。


そう言えば、聞いとかなきゃいけないことあったな。

千尋は今年も帰らないのかなぁ。

大翔に会うのが嫌で、千尋は実家にあんまり帰らないんだよね。


「今年のお盆休みはどうする?」

「・・・あ~そうだね・・・どうしようかな」

困った顔で目を伏せる千尋。


やっぱり、帰りたくないか。


「地元の友達と綿密に計画を練って、あいつを、合わないようにするから、帰らない?」

千尋のおじさんやおばさんもきっと会いたがってるし。

一年に一回でもいいから、千尋を連れて帰ってあげたい。


千尋は地元に帰っても、大翔と合わないように家から出ない。

この子は何にも悪くないのに、そんな風にこそこそしないといけないなんて・・・。

やっぱり納得いかない。


大翔の方がこそこそするべきよ。


「・・・う、うん、そうした方がいいのかな」

おばさん達から顔が見たいって、きっと連絡来てるよね。

千尋も、本当は帰りたいはずだよ。

この子に、こんなにも影を落としてる過去をどうしたら、振り払えるんだろうな。


「まだ、時間があるから、ゆっくり考えたらいいよ」

千尋に負担をかけるつもりはない。

「うん。いつもありがとうね、紀伊ちゃん」

力なく笑った千尋を、救ってくれる存在が現れて欲しいと願わずにいられなかった。







「久しぶりに美味しいね」

クレープを頬張る千尋に、笑顔が戻る。

私達は、クレープと飲み物を購入して、店先のガーデンテラスに陣取った。

同じ様にクレープを食べるカップルやグループが幾つかある。



「本当、美味しい」

「あんまり食べ過ぎたら、晩御飯食べられなくなるかもね」

笑う千尋に、

「別腹だもの」

と大きめのクレープを頬張る。


美味しい物は楽しく食べなきゃね。