北本先輩と別れたあと、迎えに来てくれた紀伊ちゃんと出会えた。
膝を怪我して、ちょっとボロボロになってる私を見て紀伊ちゃんが発狂したのは言うまでもない。
「まったく、危ないバイクね。ナンバー分かってたら、取っ捕まえてボコってやるのに」
鬼の形相で怒り狂ってる紀伊ちゃん。
「まぁまぁ、落ち着いて。大事には至らなかったんだし」
紀伊ちゃんが猛烈に怒ってくれるから、私は冷静になっちゃう。
「私の可愛い千尋に怪我させたのに、落ち着いてなんていられないわよ」
ガンッと手に持っていたマグカップをテーブルに叩きつけた紀伊ちゃん。
あ~お揃いで買ったマグカップが割れちゃうよ。
「紀伊ちゃん、割れちゃう」
悲しくなって眉を下げた。
「あ・・・ごめん。でも、ま、北本先輩もたまには役に立つのね」
「うん。今回は助かった・・けど」
「・・・顔を見られちゃってるかもってところが不安ね」
私の言葉を引き継ぐように紀伊ちゃんは言う。
気難しそうに眉間にシワを寄せた紀伊ちゃんと同じタイミングで溜め息を漏らした。
「そこなんだよねぇ。俯いてたし暗がりだったから、大丈夫だと・・・思うんだけど」
「見られてたら厄介ね。こんなに可愛い千尋をあの先北本輩が見逃すはずないし。ストーカーされたりしたら困るわ」
紀伊ちゃんは険しい顔で腕組みをした。
「さすがに、それはないと思うよ。北本先輩は私になんて構わなくても選り取りみどりだろうし」
「千尋は自分を分かってなさすぎ」
「もう、紀伊ちゃんの欲目だって」
ハハハと笑ったら、呆れた顔をされた。
この時の私は、紀伊ちゃんの言葉が本当になるだなんて思いもよらなかったんだ。
「ま、とにかく注意するに越したことないわ。明日から千尋の周囲をしっかり警戒しましょ」
「紀伊ちゃんも渋沢先輩に注意だよ」
渋沢先輩は、紀伊ちゃんを見つけるとちょっかいをかけに来るからね。
「あれは、自分に靡かない女が珍しいだけよ」
あれ・・・扱いなんだね、渋沢先輩は。
「フフフ、渋沢先輩は案外Mかも知れないよね」
「ハハハ、それは言えてる」
私達がこんな話をしていたせいで、渋沢先輩がくしゃみを連発していたかどうかは、知らない。