「危なかったな」

北本先輩はそう言いながら、私を腕の中から解放してくれた。

いつまでも、二人で道路に座り込んでる場合じゃないよね。


「あ、ありがとうございます」

失礼だけど、俯いたままお礼を言う。

だって、眼鏡無いんだもん。


あ~もう、見つかんない。

どんなに目を細めても眼鏡を確認できないよ。


「いいよ。あのバイク、逆行してたよな、危ないやつだ」

北本先輩の声に怒りが滲んでる。


「そうですね。反対斜線を走ってくるなんてあり得ない」

あいつのせいで、眼鏡が吹き飛んだ。


「立てる?」

先に立ち上がった北本先輩が俯いてる私の前に手を差し伸べてくれた。

「・・・・・」

この手を取ったら顔を見られちゃうよ。

どうしよう。


「どこか怪我した? 痛いの?」

心配そうな北本先輩の声に申し訳ない気持ちになる。

打ち付けた膝は痛いけど、立てないほどじゃない。


暗いから俯いてたら大丈夫かな?

いい加減、手を取らないと失礼すぎるよね。


「だ、大丈夫です・・・っ」

意を決して顔を上げずに北本先輩の手を取って立ち上がると、膝がズキンと痛んだ。


「・・・あ、膝、血が出てる」

北本先輩は私の膝を覗き込む。

あ~止めて、顔バレする。


「・・・・・」

「・・・あれ? 千尋ちゃん、眼鏡無くした?」

き、気づかれたぁ。

不味い・・・不味い。

紀伊ちゃん、私、大ピンチです。

お願い顔を覗き込まないで。



「ちょっと待ってて」

北本先輩はそう言うと私の手を離して、周辺の道路をキョロキョロしだした。

どうやら、眼鏡を探してくれるつもりらしい。


ここが今、街灯の下じゃないことを神様に感謝する。

俯いてたら顔、暗くて分かりずらいよね。



「あ、あったあった」

北本先輩は、私の眼鏡を見つけたらしい。


「・・・色々とすみません」

眼鏡が見つかったことにホッとする。


「はい、どうぞ。割れてなくてよかったね」

「ありがとうございます」

拾い上げて差し出してくれた眼鏡を、俯いたまま受け取って顔にかける。


やっと安心できたことに、顔を上げて先輩を見た。

私を助けた時に、擦りむいたのか北本先輩の腕から身が出てる。

慌てて袈裟懸けしていた鞄からハンカチを取り出して彼に差し出した。