「うわっ、寒気した」
自分の両腕を擦る紀伊ちゃん。
「どうかしたの?」
「なんだか、今、物凄い寒気がしたのよ」
凄く嫌そうに顔を歪める紀伊ちゃん。
「風邪ひいたんじゃない?」
「そうかなぁ」
自分の額に手を当てて溜め息を漏らした紀伊ちゃんに、今日は滋養のいい夕飯を作ってあげようと思った。
「無理しないで、帰る?」
「ううん、今日の4コマは落とせないんだよね」
「そっかぁ。でも、しんどくなったら言ってよ」
「うん、ありがと」
「バイトも休んだ方がいいんじゃないか?」
「大丈夫よ。もう寒気無くなったし」
フフフと笑った紀伊ちゃんの顔色はそんなに悪くない。
「そう、ならいいけど」
「ん。さ、ちょっと急ぎましょ」
移動する生徒で溢れてる廊下を急ぎめで進む。
不意に見た正面、視界に映った二人に眉を寄せた。
女ったらしのイケメンコンビだ。
相変わらず周囲の視線をかっさらってる。
「うわっ、あいつらだ」
紀伊ちゃんも気づいたらしい。
「声をかけられる前に退散しなきゃね」
「本当よ。百害あって一利なしよね」
うん、と二人で頷いて、少し先の曲がり角へと向かった。
目的の講義室はすぐそこだ。
中に入ってしまえば、声はかけられないよね。
彼らに声をかけられると、針の筵のように女の子達の視線が刺さって居心地悪いったらない。
紀伊ちゃん目当てなのは分かってるけど。
出来るなら、声をかけられる機会を極力減らしておきたい。
「千尋、そこの席空いてるから座ろ」
早々に講義室に入った紀伊ちゃんに手を引かれて、空いてる席へと向かう。
「ふぅ、やっと落ち着いたね」
鞄の中から筆記用具を取り出した。
「千尋もあいつらには気を付けなさいよ。昨日もニアミスしたんでしょ?」
カテキョの帰り道に北本先輩達とすれ違った事は、昨日の夜に伝えた。
「うん」
「美少女の千尋はあいつらの格好の獲物なんだからね」
「フフフ、そんな誉めても何も出ないよ」
と笑ったら、
「無自覚が一番怖い。気を抜くんじゃないよ」
デコピンされた。
なんだか、理不尽だ~。
「痛いよぉ、紀伊ちゃん」
涙目の私に、紀伊ちゃんはやれやれと首を振る。
「千尋は私が守るしかないわね」
しかもよく分からない決意をしてるし。
でも、紀伊ちゃんの言うように、北本先輩と会わないようにだけはしないとね。
カテキョ、気を付けてやろう。
私も、少し斜めに決意をして、今日の星座占いのラッキーアイテムを握りしめた。