「どうして・・・・・・」

 ドアを開けると、帰ったはずの拓実がケーキと花束を持って立っている。

「恋人になってちょうど一年だろ?」
「うん」
 
 拓実は内緒でケーキと花束を用意してくれていた。
 中に入るように促して、自分も用意していたプレゼントを取りに行こうとした。
 すると手を引かれて、真正面から抱きしめられた。

「たまには甘えて」
「何? 急に・・・・・・」
「いつも自分でどうにかしようとしている」

 言葉をつまらせると、大きな手が前髪を撫でた。

「何かしてほしいこととかないか?」

 何でも言っていいことを言われ、腕の中で考える。

「・・・・・・今日、一緒にいてほしいな」
「あのな・・・・・・そのために来たんだ」

 少し呆れながら言われた。

「ケーキ食べたい」
「はいはい・・・・・・」

 苦笑いする彼を見ながら、こっそり笑みを浮かべた。

「拓実はないの? 私にしてほしいこと」

 自分だけしてもらうばかりというわけにはいかない。

「動くな」
「ん?」

 動きを止めると、彼にキスをされた。
 すぐに離れて顔を覗き込まれたので、咄嗟に顔を隠す。
 手を引き剥がしながら何度も名前を呼んでくるので、そっと顔を上げた。

「次は葉子からキスして」

 首を横に振ると、悲しそうな顔になった。

「もう少し後で・・・・・・」
「それ、忘れるなよ」
 
 小さく頷くと、頭の上に手をのせられた。
 その夜、眠っている拓実の唇にキスをしたとき、彼は目を閉じたまま口元を引き上げていた。