この麗しい婚約者と向かい合うと、ついつい余計なことを考えてしまう。


 アリシアは右の手の甲を軽くつねって、余計な思考を振り払った。



「殿下のおっしゃる通り、あのお茶はわたしがこの手で淹れさせていただきました。もし不快な思いをさせていたのなら申し訳ございません」



 怒られるかもしれないと思った時は、その前に、事実を認め素早く謝ることが大切。そうすれば相手の怒りも幾分か収まってくれる。それは経験上学んでいる。

 昔、勉強をサボって街のカフェへ出かけたのがバレた時も、着替えずに庭いじりをして高いドレスを汚してしまった時も、そうやって乗り切ってきた。



「侍女のような真似をすることが褒められたことでないことも理解しております。ただ、面白半分にやっているわけではなく、きちんと学んだ上での真剣な趣味であることは知っておいていただきたく……」


「待て。私は別に貴女を責めるつもりはないぞ?」



 さらに言い分を並べ立てようとしていたため、アリシアはそう言われて言葉を詰まらせた。

 お茶が不味かったわけでも、婚約者の使用人のような趣味を咎めたいわけでもない。ならば彼はどうして、わざわざここに足を運んだというのだろう。