その父親が最期に呟いたのは、母さんの名前と、『愛してる』という、心からの愛情。


母さんのいない世界で生きることが、父にはできなかった。


だから、僕を含め、すべてを死に絶えさせることで、自分の世界を終わらせようとした。


そんな、弱い人だったと、今なら言える。


母さんがいなくなったあの日が、父さんの世界の終わりだったんだ。


あの時、引き金を引いていなければ。


なんて、何度考えただろうか。


でも、何度、あの時に戻っても、僕は同じ選択をし、父を殺したであろう。


でなければ、ユイラと出逢うことも、助けようと思うことも、愛すこともなかった。


危険を犯してまで、会社を興そうなんて考えなかった。


自分の世界は狭いまま、肉親の血で染まった手を永遠に持ったまま、僕は孤独に世界を終えただろう。