そんなとき、伯父の付き添いでついてきた相馬に出逢った。


「……母さんが死んで、一年も経ってない頃でしたね。屋敷中の誰もが、俺を気遣い、色んなところに連れ出しました。そのなかで、俺が唯一、行きたいと言った場所……それが、会社の会談だった」


幼い頃から、統治者としての才覚を見せていた相馬は、子供らしからぬ発言で、僕と仲良くなった。


「端の方で睨むようにして、僕のことを見てきとったもんなぁ?」


「……不思議だったんですよ。どうして、この人はうちよりも下なのかって。前も言ったでしょう」


「そういや、そうだったな」


相馬が言うに、『どうして、それほどの実力がありながら、黒橋は御園より下なのか』ということらしく。


「そりゃ、もう、歴史の差やろな」


「……勉強して、学んだ今なら判ります。そのくらい……」


「妻の気持ちはわからないのに?」


「……っ」


昔から、僕に何故かなついた相馬をからかうことは、僕の密かな楽しみで。


「まぁ、沙耶がどうとかはどうでもええんやけど。君を選んだのは、あの子の意思やし。あの子に何かあったとしても、それはあの子が選んだ道の結末や。別に、君のせいにする気はない。せやけど……」


相馬は、何も言わなかった。


沙耶には黙っていたが、相馬は沙耶の身体のことの責任は感じつつも、沙耶が思っているほどはもう、気にしていない。


彼が気にしているのは、100%、沙耶の行く末。